「日本の睡眠時間が短い」ことは、国際的にもしばしば話題に上るテーマです。
経済の発展とともに働き方が多様化し、ストレスも増加し、そして一極集中が進み通勤時間が延びてしまう中で、多くの人々が十分な睡眠を取ることが難しくなっています。
この記事では、日本の睡眠短縮の現状とそれに伴う健康上の問題について詳しく解説します。
また、睡眠の必要性、睡眠障害のタイプが私たちの睡眠にどのような影響を与えたのか幅広く掘り下げていきます。
今後どのようにして睡眠の質を改善していくべきか公的な研究や統計を基に、今後の対策についても考察していきますので詳細が気になる方はぜひ最後までお読みください。
日本の睡眠時間短縮の現状
日本は世界でも特に睡眠時間が短い国の一つとされています。OECDの2021年の調査報告によれば、加盟国30カ国中で日本人の睡眠時間は平均7時間22分でワースト1位でした[5]。
トップ5 (平均睡眠時間が最も長い国)
| 順位 | 国名 | 平均睡眠時間 (時間) |
|---|---|---|
| 1 | 南アフリカ | 9時間13分 |
| 2 | 中国 | 9時間01分 |
| 3 | アメリカ | 8時間51分 |
| 4 | エストニア | 8時間50分 |
| 5 | インド | 8時間48分 |
ワースト5 (平均睡眠時間が最も短い国)
| 順位 | 国名 | 平均睡眠時間 (時間) |
|---|---|---|
| 1 | 日本 | 7時間22分 |
| 2 | 韓国 | 7時間51分 |
| 3 | スウェーデン | 8時間02分 |
| 4 | デンマーク | 8時間08分 |
| 5 | アイルランド | 8時間11分 |
特に都市部での生活者や長時間労働が常態化している職場に勤めている人々では、この平均値よりもさらに短い睡眠時間を強いられている場合が少なくありません。
さらに、NHKの調査によると、日本人の平均睡眠時間は1960年から1時間減少したとされています。[1]
これは様々な世代におけるライフスタイルの変化が一因と考えられており、一般的に若者世代から高齢者世代にかけて睡眠時間のパターンや生活に対するニーズが変化するとされています。
世代別で考えられる睡眠時間の短縮理由
- 学生:学業のプレッシャーや早い時間の始業、部活動、塾への通学などにより十分な睡眠を取得できないケースが多いです。また、スマートフォンやゲーム・インターネットの利用が睡眠時間の短縮に繋がっていることも指摘されています。
- 若手労働者:新社会人になると仕事の責任や長時間労働、通勤、さらには社交のための飲み会などによって睡眠時間が犠牲になりがちです。また、それによるストレスや不規則な生活が睡眠時間の短縮を引き起こしています。必要な睡眠時間は7-8時間程度であるため、睡眠時間の短縮による生産性の低下や疾病リスク上昇の影響を受けやすい年代です。
- 中年層:仕事と家庭を両立しているこの世代は仕事のピークと家庭生活の両立によるストレスが多い傾向です。子育てや介護などの家庭内の責任も重なり十分な睡眠を取ることが難しくなります。
睡眠障害のタイプ
近年睡眠時間の短縮だけでなく、睡眠障害を患う方も増加しており、18歳以上の成人の30〜40%が何らかの睡眠障害を有していると考えられます。また、女性は更年期や月経周期の変化が関連し不眠になりやすいと言われています。
睡眠障害は20種類以上ありますが、代表的なものが不眠症や概日リズム睡眠障害、過眠症です。
- 不眠症:入眠困難(寝つきが悪い)、中途覚醒(眠りが浅く途中で何度も目が覚める)、早朝覚醒(早朝に目覚めて二度寝できない)などが特徴です。
- 概日リズム睡眠障害:体内時計の周期と地球や社会の24時間の周期との間にずれが生じ、睡眠・覚醒相後退障害(夜更かしして朝方になってようやく眠れる)、睡眠・覚醒相後退障害(非常に早く眠り始めて早朝に目が覚める)などの症状が現れる状態。
- 過眠症:睡眠時間は充分足りていても、日中に強い眠気や居眠りを繰り返してしまう病気。金縛りや入眠時幻覚を伴うナルコレプシーや、明確な原因の分かっていない特発性過眠症などがある。
COVID-19パンデミックと睡眠問題

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは、外出制限や社会的距離の確保など私たちの生活様式に多くの変化をもたらしました。これらの変化は睡眠パターンや睡眠に関する問題、そして日中の活動への影響が顕著です。
特に日本では、他国と比較してパンデミックの直接的な影響が比較的軽度であり、社会的な制約も限定的でしたが、それでも特に若者を中心に睡眠習慣に顕著な変化が見られました。多くの若者が夜更かしや不規則な睡眠スケジュールを経験し、その結果、日中の活動や心理的な健康にも影響が出ていると報告されています。
このように、COVID-19パンデミックは私たちの睡眠と日常生活に未だに影響を与え続けており、これに対する適切な理解と対策が求められています。[3][11]
睡眠不足が健康に与える影響って?

睡眠不足は多くの健康上の問題を引き起こす可能性があります。身体的影響と精神的影響に分けて解説していきます。
身体的影響
- 心血管疾患のリスク増加:睡眠中に血圧は自然に下がるものですが、睡眠不足ではこのプロセスが妨げられ日中の血圧が高くなる傾向にあるのです。また、血管を固くして血流を悪化させることで動脈硬化を引き起こし、高血圧、冠動脈疾患、心筋梗塞などの心血管疾患のリスクを高めます。
- 肥満と糖尿病:睡眠不足により食欲を増加させるホルモン(グレリン)が増え、満腹感を与えるホルモン(レプチン)が減少することで体重増加に繋がります。また、睡眠不足はインスリン感受性を低下させ2型糖尿病のリスクを高めるのです。
- 免疫機能の低下:21〜55歳の健康な男女153名を対象とした研究において、睡眠時間が7時間未満の人は8時間以上の人に比べて風邪を発症する確率が2.94倍高いことが分かっています。[12]
精神的影響
- 生産性の低下:日中に必要なエネルギーが十分に蓄えられないため疲労感が増し、体力や集中力・記憶力が低下します。これは仕事や学習の効率を悪化させる可能性があります。
- ストレスの増大:睡眠不足によって「ストレスホルモン」と呼ばれている、コルチゾールの分泌が亢進し、これが持続するとストレスを感じる状態になります。そしてコルチゾールの分泌が亢進している人は睡眠の質が下がる悪循環に陥ってしまうのです[6]。
- 精神疾患のリスク増大:うつ病の人はコルチゾールの分泌量が多い傾向にあります。そして、睡眠不足だとうつ病を発症するリスクが約2倍あることが示されているのです[13]。
人間にとって睡眠はなぜ必要なの?

人間にとって睡眠は単に体を休めるだけではなく、いくつもの重要な生理学的プロセスを支えるために不可欠な活動です。以下に睡眠の必要性に関するメカニズムとその根拠について説明します。
脳のメンテナンス
睡眠中には脳が日中に蓄積した毒素や不要な情報をクリアにする機能が活発に働きます。グリンパティックシステムと呼ばれ、特に深い睡眠(ノンレム睡眠)の間には脳脊髄液が脳内を流れ、有害なタンパク質の一つである”アミロイドβ”を洗い流すことが示されています。
*アミロイドβとは脳内に存在するタンパク質の一種で、脳神経を障害してしまう作用があります。特に認知症を引き起こす代表的な疾患であるアルツハイマー病で、アミロイドβが脳神経に高度に蓄積していることが明らかになっています。
記憶の整理と定着
睡眠は、私たちが日中に学んだ情報の整理、記憶の定着、および長期記憶への移行に重要な役割を果たします。レム睡眠は、特に感情的な記憶や、あるいは、自転車の乗り方のような「どうやって何をするか」を学ぶ手続き的記憶と呼ばれるものの整理が行われます。
つまり寝ている間に、その日に経験したことが頭の中で整理され、大切な記憶としてしっかり保存されるのです。
身体の修復
睡眠中には、成長ホルモンが分泌され身体の細胞の成長と修復が促進されます。これにより、脂肪代謝や筋肉の成長、組織の成長、免疫システム(体を病気から守るシステム)の強化が行われます。
良質な睡眠を得る方法

良質な睡眠を得るためには、日光の浴び方、寝室の環境、生活習慣など、いくつかの重要なポイントがあります。研究ではこれらの方法が睡眠の質を向上させることが示されており、日々の生活の中で意識して取り組むことが大切です。[9]
日光を浴びる重要性
日中に十分な日光を浴びることが大切です。日光を浴びることで体内時計がリセットされ、夜はメラトニンという睡眠を促すホルモンがしっかり分泌されることでぐっすり眠れるようになります。例えば、朝起きたらカーテンを開けて太陽の光を部屋に入れる、昼休みには外で散歩するなどが効果的です。
寝室環境を整える
寝室は静かで適度に暗く温度も快適であるべきです。特にスマートフォンやタブレットのブルーライトの使用は、最低でも寝る1〜2時間前から控えると良いでしょう。理想は5~6時間前です。
また、寝室の温度は寝やすいように調整しましょう。WHOは冬の室温を18度以上に維持することを推奨しています。[10]
適度な運動をする
日中に適度な運動をすると夜の睡眠の質が向上します。ただし、寝る直前の激しい運動は避け日中から夕方にかけての運動が推奨されています。例えば、朝のウォーキングや夕方の軽いジョギングなどが効果的です。
嗜好品の摂取に注意
朝食の欠食や夜遅くの食事、カフェインの摂りすぎ、飲酒は睡眠の質を下げる原因となります。朝食をしっかり摂ることで体内時計が整い、夜は早めの時間に軽い夕食を取ることが望ましいです。
カフェインは特に午後は控えめにし、アルコールも睡眠の質を落とすため量と頻度を控えめにすることが重要です。少なくとも、週に3日以上は禁酒日を作りましょう。
まとめ
睡眠問題は日本における深刻な社会問題であり、多くの世代にわたってその影響を及ぼしています。睡眠時間の短縮は、個々人のライフスタイルの変化や社会的要因によるものも大きく、それに対する適切な理解と対策が求められています。
若者には睡眠衛生や睡眠時間管理の教育が必要であり、働く世代には労働時間の適正化が求められます。また、高齢者には適切な床上時間と年齢と睡眠の関係性に対する正しい理解が不可欠です。これらの対策により、健康で充実した生活を送るための質の高い睡眠を確保していきましょう。


